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路傍の晶

第30回

Salt&pepper 店長 若林さん

* 店長の若林さん *
* 店長の若林さん *
この地に根を下ろして、10月で丸12年になる。勤めていた会社を辞めて彼女が独立を果たしたのは、バブル景気もとうに終わりを告げた1994年のことだ。破裂した風船の残骸に飛び込む行為は、お世辞にも賢いとは言えまい。「あと5年も早ければ好景気にあやかることができたのに」新たな船出を期する彼女に、周囲は決まってこんな台詞を浴びせたものだ。
* 東長崎にあるお店 *
* 東長崎にあるお店 *
しかし当の本人の頭には、周りが弾くような算盤は存在しなかった。「ただただ、雑貨に囲まれていたい」愚直なまでの信念が、その細腕を捲らせていた。

 10代の頃から、若林さんは独立志向だったという。「とにかく自分の力で何かやりたいと思っていました。ですから目標はまだ漠然としていたけれど、当時から将来を見据えて貯金を始めていた。そのうち、暇さえあればお店に足を運び、雑貨を手にしている自分に気付いたんです。『これしかない』と思いました」
 目標を定めて足場を固め、機が熟したと判断したときが、奇しくもバブル崩壊後だった。
* オリジナルの革製品 *
* オリジナルの革製品 *
ようやく手にした自分の城には当初、バブル景気の余韻もあったのだろう、たくさんの客が詰めかけた。オープンして間もないクリスマスシーズンには、ギフト用のラッピングを待つひとたちの列が店の外まで連なったほどである。けっして狭くない店内も、人いきれに包まれた。

 だが好調な滑り出しも長くは続かない。世間のギフト離れが進み、客足は次第に遠のいていった。ときをおなじくして雑貨店を始めた知人は皆な、不景気に店を畳み、あるいはインターネット販売専門に切り替える者もいた。

 若林さんも例に漏れず苦境に立たされたが、しかし俯くことはなかった。「辞めたいと思ったことは一度もないですね」と、自身を振り返る。
「どんなに生活でお金を切り詰めても、何も買えなくたって苦にならない。始めたときとまったくおなじ、『これしかない』という気持ちだから。それに、仕入れの段階から楽しいし、自分が好んで仕入れたものをお客さんに気に入ってもらえたときはさらにうれしいんですよ」

 自身の好みが反映される品揃えは、12年のあいだにさまざまな変遷を遂げてきた。最近では特定の作家のポストカードやアクセサリーに力を入れている。また若林さん自らパスケースや名刺入れ、手帳などの革製品を製作し、販売するようになった。

「使う道具もかぎられているし、まだまだなんですけどね。ただ私は、綺麗に卒なく仕上がっているものより、切った跡が多少残っているような、無骨な作品のほうが好き。丁寧に時間をかけてつくれば、味わいのあるものができるんです」

 なるほど、若林さんのオリジナル作品を手にとってみれば解る。無骨ゆえに滲み出る味わい深さと温かみは、作り手の今日までの歩みをそのまま物語っていた。

  取材・文◎隈元大吾
http://www.scn-net.ne.jp/~jps/

Salt&pepper
住所:〒171-0052
豊島区南長崎5-14-5
 
アクセス: 西武池袋線東長崎駅
南口より徒歩4分
都営大江戸線落合南長崎駅
A2出口より徒歩6分
 
電話番号: 03-3950-6561
営業時間: 15:00~22:00
定休日: 不定休(主に水曜)